2度目の来訪

 
 
東京駅に迎えに行く
想像していたより、具合は悪そうだ。実家まで、車で迎えに行くべきだった。
ボクは、兄と顔を合わせるのが嫌なのだ。
具合の悪い母を思えば、それ以上に大事なことなどなのもないのに。
 
東京駅から、発車待ちをしていた1番線の電車の乗り込む
数分前から、停車していた電車に、空いている席はない。
次を待とうか少し迷ったが、一刻も早く母を家に連れていくべきと思い
優先席の前に立つ
左から、40代の寝たふりの男性、雑誌を抱える30代の女性、70代ぐらいのお年寄り
だれか年老いた母に席を譲ってほしい。心の底から思った。
四ツ谷を過ぎ、新宿を過ぎたあたりから、立っているのが辛そうな母。
大丈夫かと聞くが、問題ないと答える母。
中野を過ぎたあたりで、辛そうな母を見かねた一番遠い席のお年寄りが席を譲ってくれた。
ボクは、席を譲ってほしいの一言が言えなかった。そんな性格ではないはずなのに。
具合の悪そうなおばあさんがいて
それを知りながら優先席に座る30代40代の人間に
許せないという強い憤りがあり、言葉をかけられなかった。怒りで震えてしまった。
大事なのは母を座らせることだったのに。
 
なんとか我が家に到着。
5月に入居したばかりの新築マンションをみて、少し驚いていた。
母が住むわけではない。
 
嫁が帰宅
母にシャワーを浴びてもらう。
後から母に、シャワーが出ないと文句を言われた。
シャワーヘッドにあるボタンを押してしまったようでシャワーが出ない状態だった。
寒いのに、いちいち桶に汲んで体に浴びていたようだ。
その時に言ってくれればいいのに。
「だって、あんたはそんなこと一言もいってないじゃないかと」怒られる。
 
深夜、物音がして目を覚ますと
母が風呂場にいる。
どうしたのかと聞くと
「間に合わなかった」と
そもそも、トイレの場所に行くまでに手間取ってしまったんだろう。
「なんであんたが気づくんだ!」と、また怒られる。
そんな姿を見せたくないんだろう。
嫁を起こして、手伝ってもらう。
 
 
翌日
老人ホームに行く
入居料は、月50万
いくつかの説明を受け、母の部屋に行く。
入り口は引き戸
トイレも引き戸で、いわゆる障害者用の大きなトイレだ
後は、備え付けのベッド
それ以外に必要なものは、これからそろえていかないと。
テレビは、前に使っていた32インチをもっていく
テーブルも必要だ。
 
今日は、土曜日
土日があるから、今日は家に泊まってもらい
明日また送り届けるつもりだったけど
昨日のこともあったから、今日からここで生活してもらうことにした。
もともと、土日は、ボクの家に泊まればいいと思っていた。
風呂の制約(週2回程度)もあるし、他人に囲まれて神経使うだろうし
でも、
ボクが結婚する前ならよかったのだ。ほんの数か月前なのに。
狭い1Kのアパートだけど、母も気兼ねなく泊まれたと思う。
嫁&3DK最新式のマンションでは、逆に気を使ってしまうみたいだ。
結局、次に僕の家に来たのは、骨壺になってからだった。
 
最期の頃
最後の病院で、「悔しい。」と言ってた。
 
ぼくは、どうしたらよかったんだろう。
母は、どうしてほしかったんだろう。